雛人形 羽子板・破魔弓飾 売り出し中!
お雛さまはベビー用品ではありません。ベビー服をはじめ、ベビー用品は淡いピンクのふわふわした可愛らしいものがほとんどなので、お客様の中にはそんなベビー用品と同様に、とにかく可愛らしいものをお求めになる方がいらっしゃいます。ベビー服と違うのは、お雛さまはお嬢様の一生を通じて雛の節句に飾っていただくものだということです。五十歳になったお嬢さまが飾ってくれるかどうか、大人になって「ママやおじいちゃんおばあちゃんが私のために用意してくれたたいせつなお雛さま」と、思っていただけるかどうか、ここが一番重要なところです。
多くの方が、数年でお雛さまを飾るのをやめてしまっています。ベビー用品としてお求めになったお雛さまでは、それは致し方のないことです。何万円もしたお雛さまが数年で飾られなくなるのは、私たち人形屋にとってもたいへん申し訳ないことです。流行のない、ある程度伝統にのっとったお雛さまであることが長く飾っていただけるポイントです。どこでお買い求めになるかにかかわらず、お気に留めていただきたい要点です。
この「重箱のスミ」シリーズは、今年5月3日から始まっています。
お雛さまにかかわる、どうでもいいような、だけど、知っているとちょっと楽しくなるようなお話がいっぱい詰まっています。だれも言わない、だれも書かない、ほとんど知られていない、重箱のスミッコにへばりついたお赤飯の粒のようなことばかりです。一般的なお雛さまに関する知識はどこにでも書かれていますので、あまり触れません。へえ~、ほお~、ふ~んの連続です。見慣れない漢字も多出しますが、我慢してお目通しください。
“お雛さまの” 重箱のスミ 第47話です。
雛道具と掛盤膳揃 ~その四~
几帳(きちょう)と衣桁(いこう)
(お雛さまに使われる几帳)
お雛さまの飾りにに几帳が使われていることがあります。今から四~五〇年ほど前は多くのお雛さまに使われていて、その品名を当時発売されたワープロで打つことがよくありました。当時は「きちょう」と打っても几帳が表示されず、「きちょうめん」と打って出た「几帳面」から「面」を削っていました。その作業中に、この「面」ってなんだ?と疑問に思ったのが、この重箱のスミをほじくるようなシリーズの始まりだったような気がします。
几帳は神社や、和式の結婚式場などで見ることができます。一メートル五~六十センチ四方のきれいな布が掛けられています。
衣桁は呉服屋さんで広げた着物が掛けられている、几帳と同じような大きさの枠台のことです。和風の旅館などでは二つ折りになったものも見られます。衣紋掛け(えもんかけ)と呼ばれることもありますが、本来は着物用のハンガーのことです。
また、几帳は四~五十センチ四方の四角の台に二本の柱が並んで立てられ、その先に横に取り付けた丸棒に、布を通した別の棒を紐で結わえ付けるのですが、衣桁は四角の枠の下部両端に台がついており、竿に通した着物を広げて掛けるようになっています。
平安時代の御所では近世のように襖で仕切られた六畳とか八畳の部屋がなく、広い板の間に持ち運びできる畳が何枚か敷かれ、その周囲に几帳を立てまわして部屋にしていました。几帳が襖や屏風の役割をしていたのですね。几帳の柱はしょっちゅう手に触れるものなので、丁寧に面が取られています。この丁寧な「面」から「几帳面」という言葉が生まれました。ところが、几帳を見かけるたびに柱を見るのですが、今では几帳面な面取りを見たことはありません。現代ではすべて「丸い」柱ばかりです。名前がついているくらいなので、かつては非常に精緻な面取りが施されていたと思うのですが。
面をとるというのは、木の柱など直角に削ったままのカドからはどうしてもささくれからトゲが出てケガをしやすいので、そんなことがないようにカドにカンナを当ててささくれが出ないようにすることです。この「面」の取り方にはたくさんの形状があって、「糸面」、「角面」、「丸面」、「銀杏面(ぎんなんめん)」、そして「几帳面」などと名付けられ、これらの面をとるためにさまざまなカンナも生み出されました。これも、すべて大切な人がケガをしないようにという配慮から生まれたものです。さらに、貴人の身の回りのものには面をとった後に漆が塗られ、間違ってもトゲでケガをしないように配慮されています。面をとっていない、塗装もされていないような白木の家具に貴人が触れることはなく、ですから、雛道具にはほとんどすべてに漆を基調とした塗装がほどこされているのです。最近は塗装されていない屏風や台などの雛道具を見かけることがありますが、基本的にありえないものであることを理解していなければなりません。
(几帳)
(衣桁)
節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ
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