甲冑 兜編 ~その一~
端午の節句のしつらえというと、近年は兜の飾りが多くなりました。お子様が生涯にわたってお節句のときに飾っていただくためのものですので、ある程度きちんとしたものを贈られるといいと思います。お子様に最初に贈られる一生物は「名前」と言われますが、2番目に贈られるのが「節句飾り(五月人形や雛人形)」です。少し兜にまつわるお話を知っているとご興味がわいてくるというものです。
天辺孔。この兜には浮け張りも施されていません。
「後三年の役」合戦図より模写
端午の節句のしつらえのひとつに兜飾りがあります。この兜のてっぺんには穴が空いていて、ときどき「穴にはめ込むものがない」とご連絡をいただくことがあります。ここにはめ込むものは「元々ない」のです。
ちゃんとこの穴にも「天辺孔(てへんのあな・てっぺんこう)」という名前があり、穴の周りの飾り金具を含めて「八幡座(はちまんざ)」とも呼びます。頭の天辺(てっぺん)に、八幡様がおられるのですね。
この穴はなんのためにあるのでしょう。
いくさと言えば春や秋ばかりではなく、暑い夏にも行われます。そんなとき、兜の鉢は灼けてちんちこちんになります。その兜内の熱気を抜けさせるのにこの穴は必須です。そればかりでなく、平安時代には黒い烏帽子(えぼし)をかぶっているその上に兜をかぶっていたので、この穴から烏帽子の先を出していたのです。古い合戦絵巻には、兜のてっぺんから黒い煙のようなものが描かれていることがありますが、(絵)これは、烏帽子の先なのです。鎌倉時代には兜の鉢の内側に鉢が浮くように布を張り(浮け張り)、よりかぶりやすくなりました。頭が痒くなるとこの天辺孔から棒をつっこんで掻いたという話もありますが、浮け張りがあると痒いところに届かなくなりますね。室町時代になると、この穴にほんとうに八幡様の彫り物などを取り付けたりする人も現れました。
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