お雛道具のお話です。画像にあるお膳(掛盤膳)と三方は江戸時代から当家で使っているものです。ひな祭りのときは、このお膳に実際にお料理を盛って供え、あとでいただきます。ご飯は画像のようにてんこ盛りに盛って、ちょこんと小さな蓋をのせます。三方には白酒やジュースを載せます。重箱(これは30年くらい前に買ったもの)にはお料理でもいいのですが、お菓子を入れています。お料理を盛っていないときは、掛盤などはこちらを正面に飾っていますが、お料理を盛ったときには、これはお雛さまに供えるものですので向こうが正面になるように飾ります。もちろん、お箸も添えて。(この掛盤はお雛様用に作られていますので、前後両方に牡丹の蒔絵が施されており、前後の区別はありません。)
さて、少々長くなりますがお付き合いを。
七段飾りをお持ちの方は、お道具の入っている箱を見ていただくと「掛盤膳揃付」とたいてい書いてあります。この「掛盤膳揃」とは、この掛盤と三方、菱餅、高杯(丸餅)のことを私たち業界はさしています。「掛盤膳揃付」とわざわざ断ってあるということは、「掛盤膳揃ナシ」があったということです。そうなんです。当家にあるように、掛盤膳や三方などは、かつては多くのお宅にお節句用に備えられていたので、お雛さまを揃える時に買う必要がなかったのです。お雛さまにお供えを盛る道具は、お雛さまに付属するものではありません。重箱もそう。昔はどこのおたくにも重箱はあったので、それを用いていました。では、「掛盤膳揃ナシ」の御道具揃をなんと呼ぶかというと、「嫁入り道具」といいます。つまり、タンス、長持、牛車、お駕籠などのことです。まさに、お大名のお姫様が嫁入りのときに持参したお道具のミニチュアだったわけです。
さて、話を戻しますが、このように掛盤膳にはお料理を盛る役割がありますが、近年のお道具には絶対にお料理を盛らないでください。最近のお道具類は日本製のものがきわめて少ないからです。水気のあるものや熱いものを盛ると、塗装が剥げる恐れがあります。そして何よりも、海外製の塗装にはどんな成分が含まれているかわかりません。日本製ならば、製造者の健康面も含めてかなり安全性は高いのですが、海外で作られているものはその点がかなり不安です。まして、盛ってある料理などを万一お子様が口にしたら・・と考えると絶対に食べ物は盛らないでいただきたいのです。本来は、お膳類は実際にお料理を盛るものですので、お供えをされたい方はちゃんとした人形店か和食器のお店でお求めください。