貝合わせ
同心円状に並べます。多い方が楽しい・・
一組の貝合わせを飾るときは左右違う絵にします
昔から、というのは平安時代よりももっと前から、という意味ですが、浜辺にはたくさんのきれいな貝殻がころがっていて、女の子たちにはとても魅力的なものだったでしょう。そんな貝殻を集めて「あたしの貝殻の方がきれいよ」といって競い合ったのが貝合せです。貝殻の内側に絵を描くようになる前には、貝殻そのものの美しさを競ったものでした。「合わせ」とは、一組の貝殻を合わせることではなく、美しさや優劣を「競う」という意味だったのです。他にも三月三日に行われる「鶏(とり)合わせ」や端午の節句に行われる「菖蒲の根合わせ」など、たくさんの「合わせ」の例があります。菖蒲の根合わせについては、葉や花ではなく「根っこ」の立派さを競うという、ちょっと現代とは違う感覚のものでした。一月には「若松の根合わせ」というのもありました。
貝合わせは、似たような模様のハマグリだけを使うことでゲームとしての楽しさが増し、内側に絵を描くことで答え合わせができるようになりました。平安時代には、三百六十個くらいの数で行われていたといわれますが、実際には二百~五百くらいまであったようです。貝合わせを行う前には日柄を占い、当日は数名の神官が審判(レフェリー)となって行われていました。ゲームというより、神事に近いものだったのかもしれません
貝をまずばらばらにし、並べる方(地貝)と、一つずつ出していく方(出貝)に分けます。地貝を画像のようにすべてうつぶせに同心円状に並べ、その中央に片方の出貝をひとつうつぶせに出し、そのお相手の貝を外側の模様で探します。内側の絵が合っていれば正解です。うつぶせに貝を並べるので「貝覆(おお)い」とも呼ばれます。
当店では内側に本金箔を押して絵を描いていますが、箔ではなく金泥を地に塗ったり、あるいは貝殻に直に絵を描いたものもあります。
この貝合せを行うのに必要なのが「貝桶」です。前にも「行器と貝桶」でご説明しました。数百という数ですので保管するとき底が抜けないよう二重になっており、がっちりした脚がついています。
貝合わせは、他の貝とは決して合わさらないことから夫婦和合の象徴とされ、貝桶とともに嫁入り道具の最も大切なものとされました。しかし、たいへん高価なもので公家や大名家でないと持つことができなかったため、骨董品として世に出てくることは滅多にありません。徳川美術館などには多くの貝桶貝合わせが収蔵されていますが、なかなかじかに見たり手に触れることが難しいもののひとつです。
「その手は桑名の焼き蛤」と言われるように、桑名はハマグリの名産地なのですが、現在は絶滅危惧種Ⅱ類に指定され保護されています。
縄文時代の貝塚などからもハマグリがたくさん出てきます。アサリやシジミもありますが、ハマグリが最も多いようです。これは、やっぱり「おいしい」からでしょう。大きくて食べやすいし、なによりおいしい!ハマグリのおいしさは貝の中でも別格です。そして、貝殻がきれい!他の貝とは決して合わないと縁起物の理由としてあげられますが、シジミでもアサリでも他の貝とは合いません。やはり、「おいしい」のと「きれい」が、貝合わせになり、結婚式などの縁起物としてお吸い物になったりする一番の理由だと思います。ちなみにハマグリの旬はちょうどひな祭りの頃です。
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