雛人形の 重箱のスミ53

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雛人形とお住まい

今回はこれまでの連載「重箱のスミ」とはちょっと趣が違い、重箱そのもののお話。

今回で、とりあえず「雛人形の重箱のスミ」は一休み、次回から「五月人形の 重箱のスミ」を始めます。引き続きお楽しみください。

 以前、すこしかかわりのある大手マンションメーカーの営業の方と「畳のあるマンションが少ないので、雛人形などを飾っていただく場所がないんですよ」というお話をしていたら、「最近は洋風のお部屋でないと売れませんから」と言われました。洋風?たしかに最近のマンションは和風ではないけれど、彼の言う洋風とはどんなものだろうか考えてみました。テレビで新築の戸建てのお家の紹介をしている番組があります。それを見ていても、マンションメーカーの言う「洋風」の部屋と同じ匂いがします。出演しているタレントの方が「ホテルみたいですね」と、たぶん、ほめ言葉として言っていました。そう、それは洋風ではなく「ホテル風」なのです。ホテルはいろいろな民族、文化、宗教の方々が利用しますのでなるべく偏りのない、装飾をなるべく削ぎ落した無国籍な内装にします。どうも、そのことを「洋風」とマンションメーカーはおっしゃっていて、また、若い方たちの新築の戸建ても同じような民族、文化、宗教色のない「ホテルのような」内装が好まれるのだと思います。

 文化は家(建物)と密接な関係があります。私たちの仕事は節句にかかわるしつらえをお誂えすることです。それは五節句(正月、雛祭り、端午、七夕、重陽)だけでなく、お盆や地域のお祭りをはじめとしたあらゆる伝統的な行事に関わります。そのしつらえのすべてが、和の建築様式を根本にしています。

 毎年お正月に、近くの神社へ早朝から「火縄(京都ではおけら火と呼ばれるもの)」をもらいに来る方たちのために御神火の授与のご奉仕にまいります。しかし、最近は「電磁調理器だから火をもらってもしょうがない」という方がふえてきました。火縄(おけら火)が意味をなくし、行事がなくなるのも遠い将来ではないでしょう。床の間や掛軸を知らない方もふえてきて、それが良いことなのかどうかも私にはわかりません。民族の文化を頑なに守ろうとすると不要ないさかいが起こることもあります。でも、ひな祭りなどは世界的に見ても実にゆるやかで、平和であってこその風習であり、その価値や評価は海外生活のある方は実感している方も多いでしょう。海外ではこの風習は羨望の的であり時にはニュースにもなります。

 ひな祭り、端午の節句、お盆、お正月、さらには七夕、クリスマスまで含めて日本には多くの季節のイベントがあり、それぞれのしつらえがあります(どこの国にもありますが)。「豊かな生活」には、そうしたしつらえは欠かすことができません。そのしつらえの土台となる「家(建物)」が、豊かさの基となる「文化」から離れつつあるように感じるのは思い過ごしでしょうか。

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