連載 五月人形の重箱のスミ 58

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下毛野の金時

 

端午の節句の三太郎

  すなわち、桃太郎、金太郎、浦島太郎  ~ その二  ~

 

 姑獲鳥(うぶめ)の話も、子供のころ絵本で読んだことがあったので京極夏彦氏の本に手が伸びたのですが、今はこうしたお話、絵本などに子供たちが触れる機会が少なく、金太郎でさえもどんな人物なのかわからない人がふえてきました。四天王の話も後世に脚色されたところが多いでしょうが、少しでも昔話として聞いた経験があると歌舞伎などで名前が出てきたとき、記憶がよみがえることがあります。卜部季武の話を知らなかったら、京極夏彦氏の本を買うこともなかったかもしれません。

 金太郎は成長して「坂田金時」となり、金時豆の語源になった人。「きんぴらごぼう」のきんぴらは金太郎の息子(金平)の名から来ています。

 余談ですが、金太郎が道長のところにお使いに来たそのしばらく後、「下毛野(しもつけの)」の住民が地名から「毛」の字を消して欲しいと藤原道長に訴え出たことが同じ「御堂関白記」に記されています。それ以来「毛」を消して「下野」と書いて「しもつけの」と読むことになりました。気持ちは分かります。しばらく後になって、「上毛野」(こうづけの)も「毛」が消されて「上野」となりました。忠臣蔵の吉良上野介(きらこうづけのすけ)も「毛」がありませんね。本来は「毛野(けの)」という土地の上(かみ)と下(しも)なので、「毛」がないとどこのことやら分からないのですが、気持ちは理解できます。

 さらに余談。この本(姑獲鳥の夏)の表紙に使われているのは、絵画でも彫刻でもなく「張子(はりこ)」です。ダルマさんとか犬張子とか、紙を貼り重ねてできているあれです。作者は荒井良さんという作家で、京極氏のこのシリーズの他の作品の表紙もすべてこの方が手掛けています。ダルマは選挙の時以外には見かけなくなって、先細りの伝統工芸のひとつだったのですが、荒井氏が新たな張子の可能性を生み出し、若い美術科の学生たちの中にも興味を示す人が出てきました。素晴らしい仕事です。

 金太郎から話がそれました。金太郎は昔から「気は優しくて力持ち」の象徴で端午の節句にもよく飾られるようになり、金時豆は金太郎のような赤い色で精がつくことから名付けられました。キンピラは講談に仕立てられた金太郎話の中で生み出されたものだろうと思いますが、本当にいたのかもしれません。熊と相撲をとったり、熊にまたがってお馬のけいこをしたりしていますが、熊と素手で戦ったのは、私の知る限りではこの金太郎とウィリー・ウィリアムスだけです。足柄山山中で頼光が見つけ出した少年なのですが、母親は山姥(やまんば)で、父親はいなかったそうです。

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これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

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