連載 重箱のスミ ㉟

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親王台  その二

  藺草(いぐさ)を使ってなくてもタタミ?

 また、いま、環境問題は大きな社会問題となっています。節句品産業はこの環境問題と親和性が高いように思われていますが、実際にはそう簡単に言いきれない現状があります。この親王台の畳ひとつとっても、最近はほとんどが「和紙畳」という商品名の合成畳になってしまいました。この「和紙畳」という名称から、私たちはコウゾ・ミツマタなどの和紙を使った自然素材の畳のように思ってしまいますが、実際には木材パルプなどの原材料を樹脂と混ぜ、細いストロー状に成形して編んだもので、環境に優しいとは到底言えるものではありません。しかし、多くの利点があり、価格も従来のイ草畳とそれほど変わらないために現状ではお雛さまの畳はほとんど「和紙畳」になってしまいました。節句飾りにおいて、和紙畳の一番の利点は「灼(や)けない」、そして「品質にばらつきがない」と言う点です。百貨店などの展示で長時間スポットライトをあびたイ草畳は、どうしても灼けてしまいます。そこで「灼けない」和紙畳がイ草にとって代わることになりました。お客様のためというより、むしろ業者にとって都合の良い商品といえます。

 実際の住宅畳業界においても、「灼けない」に加え耐久性や撥水性、ささくれない、などの点から和紙畳はたいへん重宝されています。製造元のダイケンさんのホームページには「機械すき和紙を使用しています。コウゾ、ミツマタ等を使用した手すき和紙ではありません。」と紹介されています。

 ちなみに、広辞苑では和紙のことを以下のように説明されています。

【和紙】わが国特有の紙。古来の手漉きによるものと、機械漉によるものとの二種がある。前者は、コウゾ・ミツマタ・ガンピなどの靭皮(じんぴ)繊維を原料とするもので、手紙・美濃紙・奉書・鳥の子などの種類があり、後者は、故紙・木材パルプ・ぼろ・マニラ麻やミツマタの繊維などを原料とするもので、ちり紙・京花紙・書道用紙・仙花紙などの種類がある。わがみ。

 

 私も、和紙とは上記広辞苑にある前者の「コウゾ・ミツマタ~」のようなものだと漠然と思っていたので、パルプやマニラ麻を使った機械漉きをも「和紙」と表現できるのだと、今回初めて知りました。「和」とは日本のことを指すとばかり思っていましたが、マニラも「和」に入るのですね。説明冒頭の「わが国特有の紙」と、以下の説明文、特に「故紙、木材パルプ、ぼろ、マニラ麻や~」の部分に整合性があるのかどうか、はなはだ疑問があります。要するに、日本製でちり紙や京花紙、書道用紙など「和」的?な用法に供される紙であれば、材料や製法に関わらず「和紙」と呼んでも良いということなのでしょうか。それとも、日本製であればすべて「和紙」?

 黄土色に似合うお雛さまは滅多にありません。自然な色目のイ草畳は、どんなお雛さまをもってきてもしっくりと調和し支えてくれます。また、イ草畳はお雛さまと歩調を合わせてゆっくりと経年変化していきます。しかし、いつまでも色あせし続けるわけではありません。畳だけが経年変化せず、いつまでも黄色いままとだというのはかえって不自然です。さらに、よいお雛さまは年を経てもみすぼらしくはなりません。持主様とともに年を重ね、経年進化していくのです。

左が「和紙畳」  右が「イ草の畳」です。合成着色料による黄土色が似合うお雛さまはそんなにありません(と思う)。

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

※この記事の無断引用は固くお断りします。

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