2024.11.29番外 重箱のスミ Tweet お雛さまのルール今回は「重箱のスミ」ではなく、番外編、ど真ん中のお話です。 雛道具のことを書き連ねてきましたが、少し思うところをつけ加えたいと思います。ちょっとお客様から嫌われるかもしれない部分があるので、お気に障ったらごめんなさい。 ひな祭りってなんだろう?ってところに立ち戻ります。当たり前ですが「お節句」です。節句とはなにかといえば、季節の節目の行事という方もありますがその中身は「厄除け」であったり「祝い」、「祭り」だったりします。いずれにしても「生きていくための日常」からちょっと離れて、「大きな自然の中で生かされている自分を確認」したり、「ご先祖から今に至る縁(えにし)を振り返ったり」、ときには「浮世の憂さを忘れてパーっとやる」、つまりは「非日常」の日を一年間に何回か設けて、ときどき新たに生きる意欲をわきたたせる日ではないかと思います。柳田国男のいう「ケ(褻)」と「ハレ(晴れ)」です。節句やお祭り、婚礼、成人式などが「ハレの日」の代表的なものです。日常とは違う、華やかなしつらえ、衣装、食事宴会を設けて祝う日のことです。サトウハチローの「うれしいひなまつり」の歌詞にも「きょうはわたしもハレすがた~」とありますね。 で、近年、お雛さまを「お部屋の雰囲気に合うかどうか」「赤ちゃんのイメージに合うかどうか」を基準に選ぼうとされる若いママがいらっしゃいます。 お雛さまは日用品ではありません。非日常のハレの空間を作り出すためのアイテムなので、日常のお部屋の雰囲気に合うかどうかはあまり問題ではないのです。むしろ、お部屋の雰囲気を一変させるくらいでないと、ハレの日には似つかわしくありません。だから、お雛さまには真っ赤な敷き物(もうせん)を敷き(この赤にも厄除けの意味があります)、金の屏風をたて、ぼんぼりに火を灯すのです。 例えば、お雛さまの下には親王台という、きれいな縁(へり)のついた畳の台がなければなりません。おしゃれっぽく見える板の台などに載っているものもありますが、位の低い人は畳に座ることが許されず板の上です。あるいは、なにかのお仕置きのために冷たい板の上に座らされているのでしょうか。木目込などの創作人形なら許される場合もあるでしょうが、いわゆる束帯、十二単などの衣装を着たお雛様は、作る職人も畳の親王台に載せられることを想定していますので、畳のない板に載せるといかにも異様です。 お祝いや厄除けのためのものは、「縁起」が重要視されます。節句のお飾りには、当然、縁起の悪いものは避けなければなりません。「縁起」はセンスとかトレンドとかとは関係なく、「知識」「常識」によるものです。知らなければ、笑われるだけです。そして、本来、それは扱う者が心得ていなければなりません。結婚式に招待されたら、だれでも着ていくものを考えますし、スピーチで「切る」「別れる」という言葉を使ったら笑われるだけではすみません。レストランでスープ皿に直接口を付けて飲んだら、次からは絶対に誘われません。そうした「場」では、世間一般の「常識」や「ルール」があるのをだれでも知っています。ところが、雛人形はほとんどの場合、お客様は初めて購入するものなので縁起、つまり「ルール」について知らない方が多く、だから作る者、販売する者が気を付けなければなりません。ここで問題なのが、その「作る者」、「販売する者」がそれを意識せず、あるいは知らず、あるいは意識的に「お客様の好みに合わせる」という都合のいい言い訳を用いて、ぬいぐるみと同じテーストでお雛様を販売されることなのです。飾る場所など、物理的な条件が時代によって変化するのには、われわれも対応しなければなりません。しかし、お雛さまの「縁起」つまり「精神」はぶれないようにしないと、日本の文化・伝統としての雛祭りがすたれていまいます。 そして、ハレの日のためという基本中の基本に思いをいたさないと、縁起だけでなく雛人形がベビー用品のひとつとなって、ほんの数年後、お子様がベビーでなくなった途端に粗大ごみになってしまいます。お客様にとってはとてももったいない、お世話した者にとってはとても申し訳ない、そうしたことにならないよう、あえて申し上げます。ごめんなさい。SNSでもご購読できます。