お雛さまと花
~造花の美~
お雛さまにつきものと言ってもいい「桜」と「橘」。最近は省略されたり、洋花が飾られたりして影が薄くなった感がありますが実は侮れない力を持っています。よくできた桜橘や紅白梅はなかなかお目にかかることが少なくなりました。「可愛い」に寄り過ぎたお雛さまがふえてきたので、どうしても簡素なものや洋花などになりがちです。
しかし、この桜橘にもちゃんと専門の職人がいて、中には素晴らしい出来ばえを見せてくれる方もいらっしゃいます。
わが国の造花の技術は世界でも突出していて、それは、京都の祇園祭などの装飾や、舞妓さんのカンザシ、さらには公家や茶道などで飾られる節会や四季折々のしつらえによって育まれたことによります。そうした造花を「有職造花」と呼びます。
絵画彫刻など、およそ美術工芸と呼ばれるものの制作者はどんな分野であろうと資質としてデッサン力が備わっているか、訓練を重ね、見たものを作品に反映する技術を身につけていることが不可欠です。造花の場合は、その植物の成り立ち、性質を熟知し自然の力を畏怖しながら謙虚に写し、咀嚼(そしゃく)、再構築した上で単なる写実ではなく、用途に合わせて創造することが必要です。自然のものを対象にすることの奥深さ、難しさでしょう。そうした飾り花は、ときとして主役となるお雛さまをも選びます。
源氏物語絵巻の竹河に桜が出てきます。平安時代でも桜は喜ばれたようです。しかし、その時代に花と言えば「梅」のことを指していました。当時の御所の前庭には紅梅白梅が植えられていたといいます。京都御所は遷都された当時は、現在の御所より1,8キロメートルほど西の現在の西陣会館の近くに位置していました。十四世紀建武のころに現在の場所に移っています。そのときに植えられていたのが桜と橘といわれています。平安神宮でも同じように桜橘が植えられているのを今も見ることができます。これにならって、お雛様の様式として桜と橘が飾られるようになりました。
御所も平安神宮も南向きの建物の左右に植えられており、向かって右が桜になります。手の込んだ造花の桜はほぼ満開ですが、西側に当たる左側にはつぼみを多く配しています。
こうして、お雛さまには桜橘が飾られるようになったのですが、木目込人形などでは紅梅白梅が用いられることもよくあり、お雛さまにはこのどちらかがその由来に沿ったものであると言えます。
桜と橘
紅白梅
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