犬筥(いぬばこ)と唐獅子
とうとう、このシリーズも50回を迎えました。1回目は5月です。
最初のころは短かったのに、だんだん興が乗ってきて長文になってしまい申し訳ありません。調子に乗って、まだまだ続きます。
犬筥
犬張子
古いお雛さまの両脇に犬筥が置かれていることがあります。枕のようなかたちの人のような貌(かお)をした犬で、上下に分かれて中にものを入れることができるようになっています。一般的なのは二十センチ前後で、大きなものは一メートルを超すものもあり、ほとんどが張子(紙製)で、金箔を押したり美しい吉祥文が描かれています。
現代でも作られていて、多くは素焼きに彩色されたものになっています。
犬は縄文時代の遺跡からも出土されているように、はるか古代から人間の友達です。人によくなつき、知らない者が来ると警戒して吠え、危険があれば主人を守って戦ったりもします。また、犬はお産が軽く育てやすいこともあって、「厄除け」「安産」の象徴となったと考えられています。
犬筥は「御伽犬(おとぎいぬ)」とも呼ばれ、嫁入り道具のひとつで夫婦の寝室にティッシュ箱として置かれたとも言われていますが、よくわかりません。几帳(きちょう)が風でひらひらしないように重石として使われたものが犬筥に発展したとも言われています。(「几帳の獅子も恐ろしげに・・・」出典の記憶不鮮明)
ティッシュ箱はともかくとして、犬筥が「箱」であるもっともらしい理由は、箱の中に赤ちゃんの爪とか髪の一部を入れ、近づいてくる「魔」を赤ちゃんから逸らすためというものです。お守りを入れることもあります。であれば、女の子だけでなく男の子でも飾られていいように思います。かつて、上皇后さまはお孫さまたち~悠仁さまにも犬筥を贈られたそうです。民主党政権時代に、菅総理の伸子夫人がときどき犬筥のブローチをつけていたのも思い出します。厄除けだったのでしょうか。お蔭で原発も大爆発を免れたのかもしれません。
文献にもあまり出てこないので断定はできないのですが、犬筥や几帳の重石(おもし)としての獅子は奈良時代頃から存在したと考えられています。重石の獅子が犬筥に発展したという経緯はわかりませんが、「几帳の獅子も恐ろしげに」とあるように、ちょっと怖いお顔だったので可愛らしいかたちにだれかが創作したのでしょう。この犬筥が後にお宮参りの「犬張子」になり、また一方、神社の「狛犬(こまいぬ)」に発展したということです。
「獅子」と「狛犬」は同じものなのか?この点については全国の狛犬を調べている方たちがいらっしゃるのでそちらにお任せするとして、現実のかたちとしては若干違います。いずれにしてもどちらも想像上の生物なので、言葉上のことにだけ触れておきます。
獅子とはライオンのことです。ここでいうのは獅子は獅子でも「唐獅子」のことです。健さんの背中の唐獅子牡丹の獅子です。歌舞伎の連獅子や、能の石橋でも出てきて縁起の良い動物のようです。唐獅子というくらいなので中国のライオンなのですが、中国にライオンはいません。しかし、平安時代の始め、慈覚大師(円仁。伝教大師最澄とともに初めて大師号を賜った)が唐へ渡った時、道中記に一行が獅子に出くわしたことが書かれています。これは、当時、インドへ仏教修行のため多くの中国僧が行き来していたので、その人がたちがインドライオンを連れてきたのではないでしょうか。想像上の動物とはいうものの実際にライオンを見たことのある中国人は何人もいて、それを描いたものが伝わったものではないかと思います。
もとい。こうして犬筥は赤ちゃんのお守りであるばかりでなく、今ではお雛さまのお守りのように飾られるようになりました。
※犬筥は向かって右が雄、左が雌とされています。細かいことをいうと、雌雄の違いはその首輪(ヒモ)にあります。オスは男結び、メスは女結びで結ばれます。とは云うものの、その違いを判別するのは難しく、古い犬筥を拝見しても私にはよくわかりません(笑)。
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